2026.04.02

Business
B2B Marketing
Tech News

タイで、なぜ13,000人が”Marketing Technology”のイベントに集まるのか

会場を満たした「タイ語」という空気

3月、バンコクで開催された”MarTech Expo 2026″を見てきました。
会場はQSNCCのBallroom 1〜4。スペースとしては十分広いはずなのに、開場の9時を前にして、すでに長蛇の列ができていて、しばらくは入場規制がかかるほどでした。
来場者は30〜40代が中心。そして圧倒的にタイ人が多く、日本人の姿はまったく見かけませんでした。
「なぜ今、タイで”Marketing Technology”にこれほどの熱量が集まるのだろう?」
それが、この日一番初めに浮かんだ疑問でした。

ブースのパネルも、配布物も、タイ語がほとんどでした。
セミナーは「Martech Stage」「AdTech Stage」「CommerceTech Stage」の3つに分かれていて、どれも満席状態。登壇者も、聴衆も、タイ語で、タイのビジネス課題を語り合っていました。
グローバルなカンファレンスのような雰囲気ではなく、タイのビジネスパーソンが、タイの文脈で、真剣に向き合う場。そういう温度感があったのです。

キーワードは「AI・CRM・CDP」

会場を一周して、出展者を眺めていくと、テーマの輪郭が見えてきました。
キーワードは「AI」「CRM」「CDP」。
CRM系の出展者だけでも、BUZZEBEES、LINE for Business、ZOHO、ChocoCRM、ConectX、Predictiveなど、数10社が並んでいました。
彼らが想定するターゲット産業は、流通・小売り・ホスピタリティ・物流・eCommerceと幅広いそうです。
「顧客データをどう集めて、どう使うか」そのテーマを各社がそれぞれの言葉で語っていたように感じます。

一方で、気になったことがあります。日系企業の出展がまったく見当たらなかったのです。
SalesforceのようなグローバルのプレイヤーもいないMarketing Technologyイベント。ただ、これはグローバル企業が「参入できていない」というより、タイ国内発のテック系スタートアップが強すぎる市場、という見方の方が正確かもしれません。タイの商習慣やタイ語のニュアンスを熟知したローカルなツールが、すでにグローバルスタンダードと互角以上に渡り合っているのではないでしょうか。その結果として、外資が入り込む余地が狭いのかもしれません。そういう構造が、会場の顔ぶれからは透けて見えたような気がします。

日系企業が参加していなかった理由は分かりません。情報が届いていなかったのかもしれません。対象外と判断したのかもしれません。それとも、このマーケットの成熟度がまだよく見えていなかったのかもしれません。理由はともかく、「そこにいなかった」という事実はありました。

「選ばれ続ける仕組み」への関心

少なくとも今回のイベントを見る限り、「良いサービスを提供する」だけではなく、「継続的に選ばれ続ける仕組み」への関心が、確実に高まっているように見えました。
CRMやCDPへの注目は、その象徴だろうと思います。流通や小売り、ホスピタリティの現場が、「どう顧客に見つけてもらうか」「どうリピートしてもらうか」を真剣に問い始めているように感じます。
「つくる競争」から「選ばれる競争」へ。タイのビジネスがそのシフトの途上にあるとすれば、今回の熱気はその証かもしれません。

たった1日のイベントで、来場者は13,000人。展示エリアは前に進めないほどの混雑でした。
会場を歩きながら、もうひとつ気になったことがあるのです。展示エリアの中に、塗り薬メーカーのCounterpainや、MedPark Hospitalのブースがあったのです。流通や小売りならまだしも、医薬品や病院までがMarTech Expoに出展し、顧客接点のデジタル設計を本気で考えている。その事実が、この市場の「本気度」を一番よく物語っていると思ったのです。
タイ市場では今、商品力やサービス品質だけでなく、「顧客との接点をどう設計するか」が、競争力の中核になりつつあるように感じます。会場にいなかった日系企業こそ、この熱気が意味するものを、いま一度考えるべきなのかもしれません。

— Charlie