“Empowering the Future with Technology Insights from Industry Leaders”
【登壇者紹介】製造業のDXを牽引するエキスパート
津崎直也氏
Practice Head, ASEAN Manufacturing Practice, Consulting Division,
NRI Consulting & Solutions (Thailand) Co., Ltd.
タイ駐在10年目。インドネシアやベトナムなどでも勤務経験のあるアセアン地域の製造業に精通したスペシャリスト。自動車・電気・電子などさまざまな市場調査・戦略コンサルティング・システムコンサルティング・ITソリューションの導入業務に従事。
矢ヶ部弾氏
Project General Manager, Production Engineering & Monozukuri Dx Promotion Dept.
DENSO International Asia Co., Ltd.
2016年中途入社後、22年からタイに駐在。ASEAN・インド地域における「アジア向人中心のものづくりに即したDX戦略企画」の責任者。タイ製造業向けに「モノづくりDXプラットフォーム」を開発・提供している。乗り換え困難なロックイン型から現場と経営を繋ぐ全員参加型の開かれたプラットフォームへの切り替えを訴える。
橋本淳氏
Vice President, Head of JOC Sales, Deputy Head of Global Account Strategy in APAC
Fujitsu (Thailand) Co., Ltd.
「イノベーションで社会をグローバル化する」を企業目標として、タイで現場を預かる富士通(タイ)のナンバー2。配下のエンジニアは364人、営業担当者も98人。総勢518人を率いる。2014年のシンガポール駐在を皮切りに、ベトナム、インドネシアと経て、2025年から現職。タイは4か国目となり、アジア全域でのビジネス変革をリードするエキスパート。
渡邉祐一氏
Managing Director
Toyo Business Engineering (Thailand) Co., Ltd.
ビジネスエンジニアリング株式会社のタイ拠点で2011年1月~23年6月まで勤務。現在は日本本社でグローバル事業責任者を務める。海外拠点全般を統括し、新規拠点を含む7拠点で支援活動中。タイ法人のManaging Directorも兼務しながら、世界中を飛び回る日々を送る。
宮田直栄氏(※モデレーター)
CEO
EN Innovation Co., Ltd.
「未来を創るイノベーションの指揮者。挑戦を繋ぎ、育み、加速させる」がモットー。大学卒業後、タイで起業。現在はイノベーションビジネスコンサルタントとして、業種・企業規模・国境を問わず、さまざまな企業の海外進出支援や新規事業開発、オープンイノベーション支援など、特にデジタルトランスフォーメーションの領域で幅広く活動。
日本企業の立ち位置と現状:新規事業を阻む「完璧主義」の壁
宮田氏
生成AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)などの急速な進化に伴って製造業はかつてないスピードで変革の時を迎えています。企業活動にとどまらず私たち一人一人の生活にも無関心ではいられず、どのような未来が待ち受けているのかに注目が集まっています。IoT(モノのインターネット)やスマートファクトリーなどで得られるあらゆるデータの活用が生産性をアップさせ、コストを削減、売り上げの拡充に貢献しようとしています。
一方で、成果が見えにくくいといった問題や人材育成が追い付かないといった課題も存在し、テクノロジー導入のためのコストも無視できません。このような中で、単なる技術の導入にとどまらない、製造業が社会に与える価値を根本から問い直す試みが本パネルディスカッションの目的となります。チャットGDPのリリースから2年余り。誰もがAIに手が届く中、ともに壮大な変革の旅に出かけようではありませんか。
津崎
コロナ禍からの回復最中にあって、強く意識されたのが中国デジタル勢の勢いでした。人口比もあるでしょうが、24時間三交代体制は脅威そのものと言わざるをえません。日系企業の中にも、中国製のソリューションを導入しようという動きもあるほどです。スピード感をもって事態に当たることが我々にも求められています。
矢ヶ部氏
日本の製造業界にあって、生成AIは事務領域、工場では物理管理、データ化はまだまだというのが正直なところです。せっかくIoTプラットフォームを開発・提供しても、モノづくりに直接関係ない、何のためと突き放されることもしばしば。データの一元化は遠い課題です。強力なトップダウンで推し進める必要性を感じています。
橋本氏
トップダウンは確かに有効だと思います。AI技術は進んでいるのに、使っているシステムは30年も前のまま。製造現場はそれまでの運用を変えられません。自分たちの仕事がなくなるという危機感もあるのでしょう。そこをどのようにして納得してもらうか。丁寧な話し合いを重ねることで、現場と経営のギャップを埋めていく必要があります。
渡邉氏
日本にもスピード感あるベンチャー企業がありますが、大手となればERPパッケージの導入一つとっても1~2年がかり。数か月で導入を終える欧米企業や、それよりも短期間で済ませる中国勢には追い付きません。デジタル化も同様です。データを集めたけど、使えない。もう一度取り直しということが頻繁に行われています。
津崎氏
ある中国ITベンダーでは動画情報をAIが読み込み。例えば、客の好みの色や形状に対し、店舗従業員がどのような行動を取ったか、あるいは取るべきであったかをデータ解析して、その後の営業・接客に活かしています。こういう技術投入ができるところには勢いがあります。
矢ヶ部氏
この人だけにしかできないようなやり方は止める取り組みも大切です。属人性を可能な限り廃し、勝手にプラットフォームを作らないといったルールを仕組化しています。情報の中には計測不能なものもあります。数値に測れないデータは、いくら集めても有効には働きません。
橋本氏
失敗してはいけない文化と言えばよいのでしょうか。日本にはそうした空気が確かにあります。でも、それでは新規事業は育ちません。そこで私たちは、数年かけて慎重に少しずつ目標に向かって進めていく事業と、70点程度で十分、スピードを重視する事業の二つに分けて考えるように進言しています。
日本製造業の近未来:AIとデータが実現するデータ駆動型オペレーションと無人工場への道
宮田氏
70点でいいんだよというアプローチはストンと胸に響きますね。その延長線上も含めて、AIが爆発的に普及し、品質管理や予知保全など生産活動全般において活用されるようになった今、日本製造業の近未来の姿について議論を深めたいと思います。この3~5年ほど先の製造業界の動きをどう読んでいますか。
矢ヶ部氏
最終的には、データとAIを駆使した無人工場を目指すのが究極の目標です。タイでもフィンテック業界を中心にすでに同様の動きが始まっています。人を使わずに、データを駆使してどう工場を運用していくかという試みです。もちろん、それにはコストがかかります。費用対効果も重要な判断基準となります。
渡邉氏
結局は、どのようなリーダーシップが必要になるのかということです。AIはあくまで途中経過。人が最終判断を担います。デジタル化を標準化するには、そうした現場での成功体験をどんどん増やして共通認識としていくこと。それしかないのだと思っています。
津崎氏
今後3~5年先の日本DXの在り方と言えば、言葉は少しきつくなりますが、既存のビジネスモデルの破壊と創造に尽きると思います。こうした試みを数多くこなして、何がどう動いていくか。それが日本製造業の抱える本質的な課題であると考えています。
矢ヶ部氏
もう一つ言っておきたいのが、今かろうじて回っている工場でも、いずれ現場のプロがいなくなるということです。それぞれの生産ラインの人たちは、自分のラインについては頑張る。頑張って在庫が増える。データに基づかない「適正在庫」で回っています。しかしながら、そうしたプロも近い将来、老齢化を迎えて現場を去る。省人化は喫緊の課題なのです。新しい技術を活用し、この差し迫った人材不足の課題を克服する必要があります。
AI時代の課題:三位一体の協業、スピード化、そして「一歩を踏み出す」挑戦
宮田氏
本格的なAI時代の到来を受け、企業は今後どのように具体的に行動していくべきでしょうか。将来の戦略を見据えた時に考えられる課題、取るべき行動様式などとも合わせてお聞かせください。
渡邉氏
世界の製造業の現場では、スピード化は待ったなしの状態です。私はそこに強い危機感を感じてやみません。AIをまずは使ってみる。一歩を踏み出すことです。ただし、AIに頼り切ってはいけません。自分の頭で考えなくなりますから。AIを活用した後の、しっかりとした評価体制も整備する必要があるでしょう。
橋本氏
スピード感待ったなし。私もそう感じます。現場の顔色をうかがっていたら、国際的な競争に負けてしまいます。今こそ、踏み出す時です。各人が持つ知識・知見などをデジタルに落とし込んでみるノウハウのデジタル化も大切です。
津崎氏
ソリューションは数多くありますが、全員に等しく接点があるわけではないのが実情です。私は、その幅を広げていくことがAI化の時代のカギになるのだと考えております。自分からのアプローチ以外に、他者からのアプローチもあるということ。こういうソリューションの在り方が組織を強靭に、収益を上げられる組織体としていくと考えます。
矢ヶ部氏
人・組織・仕組みの三位一体が、相互にリスペクトし合えるような環境作りが必要だと私は考えています。人とは、これまで工場を率いてきプロの職人たち。組織とは会社。そして、仕組みとはAI時代のプラットフォーム作りを手掛けている我々ソフト屋を指します。AIという時代の転換期に、これら三者の協業と相互の敬意は欠かせられないものだと信じています。
宮田氏
本日の議論を通じて、スピード化への対応、ノウハウのデジタル化、ソリューションの幅の拡大、そして「人・組織・仕組み」の三位一体の協業こそが、AI時代におけるタイの日系製造業の未来を拓く鍵だと再認識できました。
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