ASEANの中で、タイは常に日本企業にとって重要な拠点となってきました。自動車産業や製造業を中心に約6000社の日系企業がタイに進出しているのですが、近年では「デジタル」「SaaS」というキーワードが注目を集めています。
実際、タイは「Thailand 4.0」という国家戦略のもと、経済全体をデジタルでアップデートしようとしています。製造や観光、教育、医療まであらゆる産業でクラウドサービスの導入が進みつつあり、日本のSaaS企業にとってはまさに追い風。今回は、そんなタイ市場の現状と、日本企業がチャンスをつかむためのポイントを、少し現場感も交えながら整理してみたいと思います。
タイ経済の動きとデジタル化の流れ
まず大きな背景から。タイの経済成長はコロナ禍で一度落ち込みましたが、その後は着実に回復中です。製造業や観光業の回復に加え、政府がデジタル産業に投資を集中させていることが、企業活動を後押ししています。
タイ政府が打ち出した「Thailand 4.0」は、日本でいう「Society 5.0」に近いイメージ。AI、IoT、クラウド、バイオテクノロジーといった次世代技術を取り込み、産業全体を高度化させる方針です。その一環でスタートアップ育成や外国企業への優遇政策も進められています。
タイで高まるクラウドサービスへの関心
近年、タイ企業におけるクラウドサービス活用は大きく進展しています。PwCが2023年にタイ国内1,010社を対象に行った調査(Cloud Business Survey 2023)では、約78%の企業がクラウドを「ほとんどまたはすべての業務で導入済み」、あるいは「一部導入している」と回答しました。
さらに「Thailand Cloud Services Market Report Q4 2024」によれば、SaaSの採用は特に金融・医療・小売業界で急速に拡大しています。営業効率化、データ分析、業務プロセス改善といった目的で積極的に活用されており、クラウドは単なるIT基盤から、競争力強化の戦略的ツールへと位置づけられつつあります。
こうした潮流を背景に、AWS、Google Cloud、Salesforce.comなど欧米大手のクラウドサービス企業が相次いでタイに拠点を設立。市場の成長性を見込んだ動きが加速しています。
今やタイは、ASEANにおけるクラウド・SaaS導入の先進市場のひとつとして注目されており、今後も多様な業界で導入が広がっていくと見込まれています。
業種別で見えるチャンス
では、どの業界にチャンスがあるのか。いくつかご紹介します。
・製造業
日本の自動車メーカーや電子部品メーカーが多数進出しており、その関連会社やサプライチェーン企業でも業務デジタル化の需要が高まっています。例えば、ある日系SaaS企業は「業務管理ツール」をタイの現場に導入したところ、紙のチェックシート文化が一気にクラウド化され、現場の見える化が進んだといいます。
・小売/流通業
タイはEC利用が急拡大しており、物流・在庫管理、CRMなどのSaaS導入が加速しています。実際に日本のマーケティング系SaaSが現地EC企業に採用され、LINEやFacebookと連動した販促施策で売上アップを実現した事例も出ています。
・不動産業
営業管理や顧客管理システム(CRM)へのニーズが増加しています。
・建設業
現場の人手不足や2025年3月末に発生したミャンマー地震の経験から、BIMや現場の業務管理ツールへの関心が高まり始めています。
・教育/医療
パンデミックをきっかけにオンライン授業や遠隔医療が一気に広がりました。日本発の学習管理システム(LMS)や病院向け予約管理SaaSが導入され始めており、今後の成長が期待されます。
このように、業種ごとに「導入の優先度」と「SaaSとの相性」に差があるため、日本企業が進出を検討する際には、自社ソリューションがどの業種とフィットするかを見極めることが重要です。
進出時に直面する課題
もちろん、いい話ばかりではありません。日本のSaaS企業がタイに進出する際には、こんな課題にぶつかります。
1.言語と文化の壁
UIをタイ語対応することはもちろんのこと、タイ独自の商習慣や業務フローに合わせる必要があります。
2.価格競争
タイのローカル企業やシンガポール・マレーシアなどの安価なSaaSと比べられるケースも多いです。
3.法規制
個人情報保護法(PDPA)は日本の個人情報保護法やGDPRに似ていますが、細部で異なる点があり、法務・IT部門の対応が欠かせません。
4.パートナー開拓
直接営業よりも、代理店や現地パートナーとの連携が顧客開拓のカギになる場合があります。
日本企業の強みをどう活かすか
では、日本のSaaS企業はどんな強みを打ち出せばよいのでしょうか。
・信頼性・品質の高さ
日本のソリューションは「安定性・信頼性が高い」というブランド力があります。特にB2B領域では信頼性が強力な武器になります。
・製造業との親和性
日系製造業が多数進出しているタイでは、現地法人や関連サプライチェーン企業に対して提案しやすい。
・サポートの丁寧さ
「売って終わり」ではなく、導入後もきめ細かく支援する姿勢はタイの経営者に評価されやすいです。
未来展望:タイをASEAN進出のハブに
タイは単なる一国の市場ではなく、ASEAN全体に展開するための「ゲートウェイ」としての位置づけも重要です。バンコクを拠点にすれば、ベトナム・マレーシア・カンボジアなど周辺国への展開も視野に入ります。
実際に、日本のSaaS企業がタイ法人を拠点に東南アジア全体へ拡大しているケースも増えています。タイ市場での成功は、そのままASEAN展開への第一歩となるのです。
まとめ
タイは今まさにデジタル経済への移行期にあり、SaaSへのニーズが急速に高まっています。日本のSaaS企業にとっては、市場規模や成長性、製造業を中心とした既存の日系企業との親和性を考えると、魅力的な進出先であることは間違いありません。
一方で、言語・法制度・価格競争といった課題を軽視することはできません。現地のパートナーシップを活用しつつ、SaaSの強みである「柔軟性」「拡張性」を前面に出すことで、持続的な成長につなげることが可能です。
「製品を売る」のではなく「現地の課題を一緒に解決する」という姿勢で臨むことが、成功の秘訣になるでしょう。そして、タイを拠点にASEAN全体への展開を見据えることで、日本のSaaS企業はさらに大きな成長を描くことができるはずです。
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